山と映画

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映画「人生タクシー」ネタバレ感想:近いようで遠い国、なんとなく怖いイメージのイランを少しだけ好きになれる映画。

人生タクシー

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満足度 ★★★☆☆

 

パナヒ監督やイランについての予備知識があれば、もっと楽しめたのかもしれない。正直、何が良くてこの映画がベルリン国際映画祭で金熊賞を獲得したのか僕には分からないが、普段目にすることのないテヘランの街や人々の様子を見ることが出来たので満足した……なんて、あまり面白くなかったみたいに言っているけれどこんな映画は初めて観た。そしてオチも含めてしっかり映画として成り立っているのが凄い。テヘランいいよテヘラン。

 

 

解説&予告

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イランのジャファル・パナヒ監督が、タクシーの乗客たちの様子から、厳しい情報統制下にあるテヘランで暮らす人々の人生模様をドキュメンタリータッチに描き、2015年・第65回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した作品。カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭で受賞歴を誇る名匠で、反体制的な活動を理由に政府から映画監督としての活動を禁じらてもなお、自宅で撮影した映像をもとに映画「これは映画ではない」を発表して話題を集めたパナヒ監督。今作では活気に満ちたテヘランの町でパナヒ監督自らタクシーを走らせ、さまざまな乗客を乗せる。ダッシュボードに置かれたカメラには、強盗と教師、海賊版レンタルビデオ業者、交通事故にあった夫婦、映画監督志望の学生、政府から停職処分を受けた弁護士など、個性豊かな乗客たちの悲喜こもごもが映し出され、彼らの人生を通してイラン社会の核心へ迫っていく。

人生タクシー : 作品情報 - 映画.com

 

監督&キャスト

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監督にして主演、イランの巨匠ジャファル・パナヒ監督。2010年から20年間の映画監督禁止令を受けてるってのに、どうにかこうにか映画を撮り続けているっつー映画愛の塊みたいな人。本作では禁止令を逆手にとったからこそ撮れた画であることは間違いない。

 

きっと日本で、というかイスラム圏で生まれていなければパナヒ監督の創作活動に誰も文句を言わなかったと思う。江頭2:50や高田純次だったらとっくに懲役を食らっちゃう国なんだろうね、イランという国は。そんな国で何十年も尖がった映画を撮っているというんだから凄い。

作品自体もそうだけど、この映画はそんな監督の心意気みたいな部分を感じ取れるんじゃないかと思う。

 

感想

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ノンフィクション? 多少演出があったとしても、監督自身と乗客しか登場しない作品なのでオチも無いというか弱いんだろうなぁ…と思っていたら、最後はまさかの車上荒らしエンド。監督と姪が車を降りている隙にバイクの二人が車のガラスを割り……

その後どうなったのかは分からないが、良くも悪くもそれが映画のオチになってしまった。

 

テヘランと言われてもどんな街並みなのか、なかなかイメージが湧かないよね。イランのイメージと言ったらイスラム教、サッカー、髭生やしてる、などなど、どちらかというと「なんとなく怖い」と思っていた。でも本作で映し出されるテヘランの街並みは思っていたよりずっと文明的で都会だった。

Wikiによると2016年の都市圏人口は1,367万人、東京とほぼ同じ。大都会でしょ! 

 

乗車する人達もそうだけど、どんな暮らしを送っているのか…というところの方が気になってしまってタクシーが走っている間、外の景色ばかりに目がいってしまった。イランてアメリカと同じく左ハンドルで右車線なんだね。それはいいとしてタクシーは相乗りが当たり前のようで、乗客が乗っているのにバンバン他の客を乗せる。

少し調べてみると日本のタクシーとは全然違っていて、料金は基本運転手次第で料金メーターは付いておらず結構テキトーらしい。

 

僕ら日本人がテヘランのタクシーを使ったら面食らっちゃうんだろうなぁ。その他商業施設やオフィスビルも数多く建っていて、走っている車もさほど日本と変わらない印象だった。それでもやはり女性がスカーフを巻いている姿は中東のイスラム圏の国なんだなぁと思わせる。

 

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タクシーに乗ってくる人々も様々で面白い。最初にフォーカスされる客がある男性とその後すぐ相乗りする女性。二人は死刑制度について議論するんだけど、わりとガチの白熱した議論でびっくり。その時たまたま相乗りしただけなのに…いや相乗りだからこそあそこまで言えるのか。ちなみに女性は教師で男性は自称路上強盗とのこと。

日本ではタクシーの相乗り自体珍しい、さらに乗客同士でガチ議論なんて更に珍しい…というか皆無。国民性だねぇ

 

車のタイヤが4本盗まれた件について…

男「死刑でいいよ」

女「は? イランはすぐ死刑にし過ぎ。中国に次いで世界で二番目に死刑が多い。」

男「で? それが抑止になればよくね?」

 

なんて具合にどんどん白熱していくんだけど、死刑制度のレベルも日本と違い過ぎてポカーンとするしかなかった。イランやべぇ…

 

同じくびっくりなのが、バイクで交通事故を起こした直後のケガ人とその妻がタクシーに乗車してきたこと。正確には数人がタクシーを止めてきて「病院へ連れていってあげて!」と血まみれのケガ人を放り込んできたんだけれど…イラン人は遠くの救急車より近くのタクシーなんだろうか。「遺書を…遺書を動画で撮って…」なんて言う余裕があったのでケガをしたあのおっさんはきっと助かっただろう。

 

そして何と言っても監督の姪ハナ。こまっしゃくれたガキンチョなんだけど言っていることが鋭くてびっくり。これもう台本あるだろと疑うレベル……それも流暢に簡潔に話すのでつい聞き入っちゃうんだよね。監督がハナを迎えに学校の近くまで行くんだけど、彼女はゆっくり近づいてきて開いた車の窓に肘をついて一言……と思いきや何も言わずじっと監督を見つめる。その姿はもう”イイ女”のそれ。

 

駐車場にて。監督は用があってハナを残し車から降りて行ってしまう。そして路上で結婚式直後と思われる新郎が車に乗り込む時にお金を落としてしまう。ハナはたまたまカメラで動画撮影をしている時にそこを撮ってしまう。そのお金を拾った少年もハナはついでに撮ってしまう。そして少年をこちらに呼び寄せ「お金を返してこい」と説教。

正義感溢れすぎかよ。凄いよねこの子。ただ生意気なだけじゃない。

 

「車から降りるなよ」と監督の言いつけも守りつつ、少年を呼び寄せ説教している辺りこの子はきっと将来凄い人に成るのかもしれないと思った。

 

死刑制度で議論していた女性、政府から停職処分を受けた女性弁護士(笑顔が超絶キュート)、金魚鉢を持った二人の女性、そして監督の姪。イランの女性は皆が皆、弁が立つんだろうか? それともあれは一部の女性だけで大人しい静か~なイラン女性もいるのかな。

 

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そんなわけで次々乗車してくる乗客の会話から聞こえてくる声から、イランという国がどんな国なのか少しだけ分かった気がする。1979年にイラン革命(イスラム革命)があったなんて恥ずかしながら初めて知ったし、検閲や監視が続いているなんて当然知らなかった。クリエイターにはなかなかどうして厳しい国のような気がする。

 

それでも反体制的な作風から「20年間の映画監督禁止令」を政府から受けながらも、試行錯誤し映画を撮り続けるパナヒ監督のような人もいる。違反したら懲役6年らしいのに。凄いよね。しかもそれで国際映画祭で賞を受賞しちゃうんだもの。乗客からも力強さを感じたけれど、パナヒ監督も凄い力強い。

 

抑圧があろうが何だろうが、常に力強くありたいと思わせてくれる作品だった。最後に本作のHPに掲載されているパナヒ監督のメッセージを載せておきます。

 

私は映画作家だ。

映画を作る以外のことは何も出来ない。

映画こそが私の表現であり、人生の意味だ。

何者も私が映画を作ることを止めることは出来ない。

何故なら最悪の窮地に追いやられる時、

私は内なる自己へと沈潜し、そのプライベートな空間で、

創作する事の必然性はほとんど衝動にまで高められるからだ---

あらゆる制約を物ともせず。

芸術としての映画は私の第一の任務だ。

だから私はどんな状況でも映画を作り続け、そうする事で敬意を表明し、

生きている実感を得るのだ。

映画『人生タクシー』オフィシャルサイト

 

 

ではでは