山と映画

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映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」ネタバレ感想:ドキュメンタリーかのような生々しさ。リアリティあり過ぎで吐きそう…

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2016年・第69回カンヌ国際映画祭で、「麦の穂をゆらす風」に続く2度目の最高賞パルムドールを受賞した、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品。イギリスの複雑な制度に振り回され、貧困という現実に直面しながらも助け合って生きる人びとの姿が描かれる。イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。

わたしは、ダニエル・ブレイク : 作品情報 - 映画.com

 

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満足度 ★★★★☆

 

あっという間だった。映画というかドキュメンタリーのようだ。難しいことは分からないけどこの映画がカンヌでパルムドールを受賞して良かったと心から思う。

 

先日NHKでケン・ローチ監督の特集をチラッと見た。彼のこだわりはとにかく「リアリティを追及すること」と言っていた。僕はその言葉を覚えていた。そしていつも社会的弱者へスポットを当てた作品を撮り続けていると。本作で30本目とかなんとか。僕は恥ずかしながらケン・ローチ監督作品は初めて観るので今日が楽しみだった。

 

しかし役所のなんやかんや細かい申請てのは、どこの国でも一緒だね。観ていてとてもストレスを感じたし、少なからずダニエルやケイティに共感出来る。国からの援助申請のシーンだけを見ていても、とても一発でOKが出そうにない。

 

もしかしたら、僕らのような普段からパソコンを使う人間なら簡単なことなのかもしれない。しかし彼らのようにマウスの扱い方も分からない人はごまんといる。でもそういった人達を基準に出来ないお上の都合というのも分からなくはない。お役所の人間はいつだって時間が足りないのだ。

 

働く側のイライラもよく伝わってきたし、実際あそこで働いたらもの凄いストレスが溜まってしまいそう。そんな風に考えてみると公務員の仕事も大変だね。

でもダニエルやケイティのような人はもっと大変だ。医者から仕事は止められているが、援助申請に行ってみれば「お前全然働けるじゃねーか」と言われ却下される。どうしたらいいのさ? 死ねということかな? 

 

実際、ああいう場面で瞬間的に頭に血が上って「もういいよ!」と突っ張ってみても、家に帰り払込用紙に記載された金額を見たりすると一気に頭が冷えるよね。だからもう一度頑張って行くんだけどまた上手くいかなくて…以下ループ

昔はどんな申請方法だったんだろう。何でもかんでも自動音声、オンラインじゃないはずでしょう? 時間や予算はかかるかもしれないけど、アナログ方法でもスムーズに申請できるようにしないと死人が増えるだけだよねほんと。

 

 

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お役所にいるシーンはほぼ全てと言っていいほどストレスを感じた。もう本当にウンザリ。でもそんな中でもダニエルは人への優しさを忘れない。彼の中では当たり前なんだろうね。生ごみをいつも共用部分に出しっぱなしの、だらしない隣人チャイナとの関係もケイティ親子との関係も。

 

目の前に困っている人がいれば助けてあげる。こんな当たり前のことだけど、それはあくまで自分の生活基盤がしっかりあるから、自分にも多少余裕があるから出来ることでしょう普通。財布に千円しかなかったら、その千円を困っている人とはいえ見ず知らずの人にあっさりあげれますかって話だ。しかも心臓病持ち、自分の収入はこれからも見込めないのに。

 

僕はぶっちゃけ分からない。でもダニエルの言っていたように「人としての尊厳は失いたくない」とは思う。あんな状況でもこう思える人間でありたいよね。かっこいい。あれでこそ男っつーもんだ。

 

ケイティ親子もそんなダニエルの気持ちのおかげで、なんとか持ち直そうとする。でもそう簡単にいかない辺りがなんとも生々しかった。ケイティが万引き、体を売って金を稼ぐ…寂しいことだけど、どこの国も同じなんだなと思った。でも生きていくってのはこういうことなんだよなあ…

 

実家でもないケイティがいくら掃除の仕事で頑張ろうと、家賃を払いながら子供二人を食わせていくことすらままならないのは目に言えていた。遅かれ早かれ体を売り始めるんじゃないかと…

個人的には僕はそれもアリだと思っている。法の範囲内で何をして稼ごうが金は金だ。その金で飯が食えるならそれはそれでいいじゃないか。売れる体があっただけまだマシとすら思える。キレイゴトだけじゃ飯は食えないからね。ケイティも不本意だったとは思うけど。

 

だからこそダニエルがいきなり職場に現れた時は見ていられなかった。「家族のように思ってくれているんだろうけど、ここから先は立ち入らないであげて」って気持ちだ。見て見ぬふりをしてくれていた方がケイティだってよかったんじゃないかな。

その方が後にダニエルにも資金援助など出来ただろうし。

 

でもそんな風にケイティが思っていたかどうかは知らないが、とにかくほっとけないのがダニエルだ。愛する妻は他界、子供のいないダニエル自身もケイティ親子に手を差し伸べることで救われていただろうね。だからこそケイティにはガッカリしたというか悲しくなったというか…

 

救えない話…とは思ったけどこのシーンも生々しかったなぁ。

 

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ラストはようやく風向きが変わりかけたところで、ダニエルの心臓発作が発動してしまう。バッドエンドではあるんだけど、僕は妙にリアリティを感じたのでこれはこれでいいんだと思う。これでダニエル、ケイティ共々ハッピーエンドで終わった方が嘘くさくなってしまう。

「現実はそんな甘くないですよー」って苦情が入ってしまいそうだ。

 

実際、似たようなことは先進国、途上国問わずどこでも起きていることだろう。もちろん日本も例外じゃない。高齢者やシングルマザーが激増しているのは日本だけじゃないんだね。ダニエルのように、どんな時でもなるべく困っている人には手を差し伸べてあげたいとは思う。

 

「思うだけじゃダメなんだろうけどなぁ…」なんて思ったでしょ? 一つなるほどって思ったのが、この映画を観ると貧困に苦しむ人達に団体を通じて50円の寄付が出来ているということ。フェアトレードみたいなもんだね。

 

danielblake.jp

 

上映館数もそんなに多くはないけど、何を観ようか迷っているなら是非観てみてほしい。

 

 

ではでは