映画「彼らが本気で編むときは、」ネタバレ感想:重いテーマなのに後味スッキリ!心を軽くしてくれるお話だった
「かもめ食堂」の荻上直子監督が5年ぶりにメガホンをとり、トランスジェンダーのリンコと育児放棄された少女トモ、リンコの恋人でトモの叔父のマキオが織り成す奇妙な共同生活を描いた人間ドラマ。生田斗真がトランスジェンダーという難しい役どころに挑み、桐谷健太がその恋人役を演じる。11歳の女の子トモは、母親のヒロミと2人暮らし。ところがある日、ヒロミが育児放棄して家を出てしまう。ひとりぼっちになったトモが叔父マキオの家を訪ねると、マキオは美しい恋人リンコと暮らしていた。元男性であるリンコは、老人ホームで介護士として働いている。母親よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いを隠しきれないトモだったが……。
満足度 ★★★☆☆
面白かった。春らしいパステルなイメージのポスターだけど、世間ではまだまだ理解の浅い「トランスジェンダー」という少し重いテーマの映画。
バッドエンドではないし、要所に笑いどころも散りばめられていて楽しめた。(主に下ネタだけど)
この手の話はどんな名監督が作ろうが、「トランスジェンダー」がテーマな時点で鑑賞後に少し考えさせられる。僕みたいなアホでも「差別はよくない」だとか「今の法律ってこの辺りはどうなってんだろ…」てな具合で少しだけ考えたりもする。
ようは後味が悪いことは無いけど、少し苦みがこびり付いてくる。2014年公開の「
チョコレートドーナツ」みたいに。
その点本作は鑑賞後の後味もスッキリしていた。
監督があの「かもめ食堂」を撮った監督だからなのかな。トランスジェンダーということを忘れてしまう位まったりとした雰囲気だった。3人の幸せそうな日常シーンを眺めているだけで心も安らいだ。リンコさん可愛らしい。
そしてトランスジェンダーともう一つ。「シングルマザー家庭」について。
ぶっちゃけこちらの方がお馴染み、というと語弊があるが身近な問題だ。本作でも描かれているようにトモの家のようなご家庭は日本にごまんといる。皆が皆、同じ家庭環境では無いけれど、この映画では一つの家族の形を見ることが出来る。
「わたしは母親である前に一人の女よ」と言い、男が変わるたびにトモを放り投げていた母ヒロミ。部屋も洗濯ものや洗い物がとっ散らかっていて、とにかくだらしなかった。でもラストにしっかり掃除洗濯され、見違えるほど奇麗になった部屋で終わる。母がおそらく更生したのだ…多分。(その後の母とトモの姿は描かれていない)
それを見て僕はどう受け止めたらいいのか、正直分からないが応援はしたい。母一人で子供を育てていくのはもの凄く大変だろうし。母ヒロミに良いご縁がありますように。
そういえばミムラのインタビュー記事を最近少し読んだ。表舞台に出ていない間、色々と苦悩されていたようで。だからという訳ではないが、ヒロミ役がとてもハマっていた気がする。
この映画はどのシーンが好きだった…というより、全体の雰囲気がとても好き。テーマもテーマなので、雰囲気やなんかを楽しむのは二の次かもしれないんだろうけれどのんびりした日常シーンがとても気に入った。
その中でも、3人でリンコの煩悩でもある編み物、「煩悩くん」の投げ合いシーン。あれは3人とも割とマジで楽しんでいた気がして、心が温まったし笑えた。
そしてお弁当を作ってあげているところや、糸電話のシーン、髪を結んであげているところや一緒に寝てあげているところ。リンコがトモに愛情を注いでいるシーンはどれもとても温かかった。
ただ一つだけ思うところが。
いくら愛情が芽生えても、リンコもトモを自分の子にしようとしてはダメ。あれだけ一緒に暮らせばそりゃしょうがないことだとは思うけど。自分では子供を産めないだろうし。
でもそれとこれとは話が別。トモの母親はあくまでもヒロミ。そりゃ虐待があるだとか経済的にヒロミが破たんしていたら話は違うだろうけれど。
「そんなこと分かってるよ」リンコの声が聞こえてきそうですね。
きっと彼女はそんなこと分かった上でヒロミに面と向かって懇願したんだろう。同僚の結婚式に参加して思うところもあったのだろうし、溢れる母性がはみ出しちゃったんだね。人間らしくてそういうの好き。それでいいと思う。
僕も偉そうなこと書いているけど、リンコと同じ立場なら同じようにしていたかもしれない。あのだらしない母親の元にいる位なら…わたしにもワンチャン…なんて。
この映画を観て改めて思ったこと。
「こまけぇこたぁいいんだよ!!」
これ。
誰を好きになってもいい、大切に思ったっていい、好きなら受け止めてあげりゃいいこと。リンコも「これは神様の造形ミス」なんて言っていたけど、世の中人の手で替えられないことなんて山ほどある。でもそんなこといちいち気にしてたら禿げ上がっちゃうよ。
嫌な思いだってするかもしれない、死にたいって思うことだってある。
そんな時は「あ、ウンコ踏んじゃった」くらいに思っておけばいいんだよ。
表面だけじゃなく、大切なところを見てくれている人はしっかり見てくれているし、自分がそう思っているなら相手に伝えるべき。それがどんな結果になろうとも。
話が散らかっちゃったけど、とにかく前向きになれる素敵な映画だなと思います。
ではでは