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映画「愚行録」ネタバレ感想:登場人物全員クズ。だがそこがいい。

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妻夫木聡と満島ひかりの共演で、第135回直木賞の候補になった貫井徳郎の小説「愚行録」を映画化。羨望や嫉妬、駆け引きなど、誰もが日常的に積み重ねている「愚行」が複雑に絡み合っていく様を描いたミステリーを描く。ロマン・ポランスキーらを輩出したポーランド国立映画大学で演出を学び、短編作品を中心に活動してきた石川慶監督がメガホンをとり、長編監督デビュー。脚本を、「松ヶ根乱射事件」「マイ・バック・ページ」などを手がけた向井康介が担当した。ある時、エリートサラリーマンの一家が殺害され、世間を震撼させる。犯人が見つからないまま1年が過ぎ、改めて事件を追おうと決意した週刊誌記者の田中は取材を始める。関係者へのインタビューを通して、被害者一家や証言者自身の思いがけない実像が明らかになっていき、事件の真相が浮かび上がってくる。主人公の田中役を妻夫木が演じ、田中の妹・光子を満島が演じる。

愚行録 : 作品情報 - 映画.com

 

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 満足度 ★★★★☆

 

登場人物全員クズ。だがそこがいい。

どちらかというと胸糞映画だけど、随所に散りばめられた”あるある”が何とも心地良い。こういう話大好き。原作も読みたくなるわ。

 

ミステリーではあるんだけど、それよりも周囲の人間の嫌な部分が印象に残る。未解決の一家惨殺事件を記者田中(妻夫木聡)が改めて洗っていく、というのが本筋ではあるけどそれが主題ではなくて妬みやひがみ、嫉妬、哀れみ、苦しみ等人間のドロッとした部分が主題のようだ。そしてその描き方がもの凄くうまい。

 

バス車内でお年寄りに「席を譲れ」と促す団塊おじさん

席を譲る田中

でも田中は足を引っ張っていて…

それに気付いたものの何も言えず気まずそうなおじさん

 

とか、名刺交換した相手が、時間が経つと自分の名刺の上に飲み物置いていたり。決して大げさなことではないけど、日々の生活の中にあるなんか”嫌な瞬間見ちゃったなぁ”が盛り沢山だ。見れば誰しも「うわぁ…」とどこか心当たりがあることだろう。

 

殺人は重罪。当たり前だ。でも殺られる方に落ち度がある場合もある。とこの映画を観ていると思えてしまうから恐ろしい。それも衝動的に…ではなく長年蓄積されたドス黒い塊が自分から溢れ出てしまうかのように。「自分の中でぷつって糸が切れる音がはっきり聞こえたんだよね…」と光子(満島ひかり)は言う。

 

 

その糸は人間誰でも標準装備されているだろう。幼少に父から性的虐待を受けたから、という理由もあるだろうけど誰でも堪忍袋の緒は切れる。そしてそれはいつどこで切れるか分からない。自分の知らないところで恨みを買っている場合もあるだろう。人を傷付けているかもしれない。

 

傷を負わされた側は、その時をトラウマのごとくはっきり覚えていて時間が経っても頭の隅にこびりついている。今現在、傷を負わせた側がいくら善人になっていようがそれは変わらない。

怖いよね。僕なんか若気の至りも含めると心当たりがあり過ぎて笑えない。

 

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田中が当時の話を聞きに方々へ駆けまわる。そして当時の映像へジャンプする。こんな調子で話が進んでいくので観ていて飽きなかった。BGMも極力無い方が良いと制作陣が判断したのかどうかは知らないが、ほぼ無い。僕はそれがとても良いと思った。

静かなシーンも多くてお腹の音が鳴らないかビクビク。

 

本作全体の半分程は、被害者夫婦の当時の大学での様子や周囲の人間模様で描かれている。そしてその様子も特別なにか凄いわけでない。実家が別荘所有の金持ちボンボンもいるだろうし、野心家の男や意地の悪い女、マドンナや取り巻きも程度の差こそあれどこの大学にだっているはずだ。

 

この映画の怖いところはこの部分にあると僕は思う。

ようはタイミングと組み合わせで、人間簡単に殺人者にもなるし壊れてしまう。人間ドロッとした感情なんていくらでも湧いてくるだろうし、コンプレックスの塊だ。でもガチで闇を抱えている人も一定数いて、その人のパンドラの箱を開けるようなことは絶対しちゃいけないってこと。そしてそれは夏原さん(松本若菜)みたいな人は絶対気付かない。

 

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もうちょっと頑張れよ 笑 …なポイントが一つ。

キャンパスであれだけお家柄がどうとか野心がありそうな雰囲気を見せておきながら、夏原さんが落ち着く先はそこなんだ、と。郊外…といってもニュータウン? にある30坪程度の建売住宅に住む程度な感じでいいのかよと。

 

あれだけコミュ力も悪知恵も働くなら、もっと他にいくらでも金持ち捕まえられるだろうに…なんて思った。まぁそれも現実味があっていいのかもしれないけれど。

そして一番胸をなでおろしたのは本作が実話ではないところ。胸糞映画はたまに「これは実話です…」なんてことがあるので安心した。こんなんリアルであってたまるか 笑

 

やっぱり邦画はいいね。

こういう日本人ならではのネガティブな”あるある”を上手く表現できるのは邦画だけだし感情移入しやすくて。最近観た邦画は全部面白い。

 

 

ではでは